みるめ刈る 海人のゆきゝの 湊路に 勿来の関も わが据なくに       新勅撰和歌集 小野小町(平安中期)
    《海人が往来す湊路に来ないでなどという関は設けていないのに最近あなたはは逢いに来てくれないのね》
惜しめども とまりもあへず 行く春を 勿来の山の 関もとめなむ           夫木和歌集 紀 貫之
    《いくら惜しんでも過ぎて行く春だけど勿来の関よどうか春を止めて欲しい》
なこそとは 誰かはいひし 云はねども 心に据ふる 関とこそみれ      玉葉和歌集 和泉式部
 逢いに行けないと言う恋人の返事に《来ないで なんて誰が言ったと言うの いいえ誰も言ってはいないわ あなたが心に関を作って私に逢いに来ないだけだわ》
ほととぎす 勿来の関の なかりせば 君が寝覚めに ますぞ聞かまし     続後選和歌集 詠み人知れず
     みちのくの国にまかりけるとき勿来の関にて花の散りければ読める
吹く風を 勿来の関と 思へども 道も狭にちる 山桜かな                 千載和歌集 源 義家
    《花を散らす風は「来るな」と言う勿来の関には来ないはずだが何と道いっぱいに山桜が散っているとは・・・》
陸奥の 信夫の里に やすらひで 勿来の関を 越えへぞわずらふ
              新勅撰和歌集 西行
   
《誰にも言えぬ人目を忍ぶ恋に「来るな」と言う関を越すべきか越さざるべきか迷い悩む私です》
聞くたびに 勿来の関の 名もつらし 行きては帰へる 身に知られつつ              後嵯峨天皇
越えわぶる 逢坂よりも 音に聞く 勿来は難き 関と知らなん            新千載和歌集 藤原道綱の母
《越すのに難儀する逢坂の関よりも更に噂の高い勿来の関の堅固さは貴方もご存知でしょう 私は勿来の関なの 口説いても無駄よ》
よひよひに かよふ心も かひぞなき 勿来の関の つらきへだては      南朝五百番歌合せ 大僧正頼意
   《毎晩逢いに言っても貴女は合ってくれない 貴女のガードは勿来の関のようなのがつらい》
名にしおはば 勿来といふと わぎもこに 我てふこさば ゆるせ関守          堀川百首 藤原基俊
   《噂では絶対に通さないと言う堅固な勿来の関の関守よ 彼女に逢うのをみのがしてくれ》
いとはるゝ 我が身勿来の 関の名は つれなき中や 初めなるらん     新続古今和歌集 藤原為氏
   《なぜか貴女に厭われる私 勿来の関の由来もこんなつれない二人の仲からきてるのかな》
恋侘びて 昨日もけふも 越ゆべきに 勿来の関を 誰かすゑけん
             堀河百首 河内
   《いつだってあなたに逢いたくて恋わずらうのに 勿来の関設けて逢えなくしてるのは誰なの あんたでしょう》
なこそせに 勿来の関は 行きかふと 人も咎めず 名のみなりけり          信明集  源 信明
    《名高い勿来の関だから簡単に行ったり来たり出来ないと思ったがそんな事は無いんだ 名前だけで全然人を咎めないよ》
都には 君に相坂 近ければ 勿来の関は とほきとを知れ                続千載和歌集 源 頼朝
聞くもうし たれを勿来の 関の名ぞ 行あふ道を いそぐ心に      新拾遺和歌集 綬二位為子
   《勿来の関の名を聞くのもつらい事だわ 彼に逢いに道を急ぐ私に「来てはならん」と言う名の関のあるのは》
東じは 勿来の関も あるものを いかでか春の こへてきつらん         後拾遺和歌集 源 師賢
都人 恋しきまでに おとせぬは 勿来の関を さはるにやあらん            永久百首 源 兼昌
   《都のあなた こんなに恋しく思っているのに 便りさえくれないのは 勿来の関のせいにしてなの?》
  手前八幡太郎義家の歌碑 後ろ義家の顕彰碑
奥州後三年記によると義家が後三年の役の帰りは9月と云う事になっている 花は既になく紅葉には早すぎるのですが都人にとってそんなことより勿来の関と聞いただけでうるうるだったのでしょうか
吹く風を 勿来の関と 思へども 
        道も狭に散る 山桜かな


あずま路に ききし勿来の 関をしも 
 我が故郷に 誰かすゑけ
  季花集 宗良親王
春風を 勿来の関の おそ桜 今日いくかにか
      尋ね来つらむ
  忠盛集 平 忠盛
6号国道から勿来関公園入り口にある古関蹟 少数だが勿来の意味くるな』ではなく名こそという意味で『名前の強調で今は名前ばかりだが嘗ては厳重で評判の関だったとの意味ではないのかと云う説もあるのです 

勿来の関