陸よりも 近き船路や 弓と弦 矢を射るごとく 下る阿仁川    奥のしおり 船遊亭扇橘


秋田内陸鉄道  阿仁マタギ駅より

鷹巣・阿仁合、角館を除けば全部無人駅の様だ
阿仁川 決して歌枕の地ではないのだが『アニ』と言うエキゾチックな名称にも惹きつけられ強引に載せてみました。、阿仁の地名がはじめて国史に出たのは、蝦夷の反乱(元慶の乱)のあった元慶2年(878)で椙淵(鷹巣、阿仁)と称されていました。阿仁町と言えば御承知の様に『マタギ』の里で有名だ。秋田内陸縦貫鉄道にはその名もズバリの『阿仁マタギ驛』もあり中々興味深いのです。マタギは蝦夷(アイヌ・エミシ)の末裔とも言われるが定かではない.。狩猟と農業を生業とするが近代的ハンターではなく独特の言葉と習慣を持つ山居民族である。語源にについても多種あり鬼より強い又鬼からとか、科(シナ)の木を東北では「マダ」と言いその繊維から糸を織り布や縄や衣服にしたからとか、木の又を利用して獲物を狙ったからとか、アイヌ語のマタク(狩)からとか、はたまたインド語の屠殺業者を意味するマータンガ(男)・マータンギ(女)からとか諸説紛々である。殊に根子(ねっこ)・比立内・打当内(うっとない)はマタギの発祥の地とされているのです。一見何の変哲もない山中の町だがここは1309年金発掘以来江戸時代には日本三大銅山となり、昭和45年閉山されるまでは金・銀・銅・亜鉛・鉛の鉱山として往時には1万人の人口を抱え当時は佐竹藩の重要なる財源小城下町として賑わったのです。明治になるとドイツ人技師も入りそのハイカラな居住館が今も異人館として保存されてるのです。海外を含め関西・関東の異文化がこの町に流れ込んでいたとは信じ難いのです。それが今や平成12年の国勢調査に依ると人口僅か4000人強、その内15歳未満何と10.6%(凡そ400人)に対して65歳以上が何と38%超であり、第三次産業が46%と凡そ半分を占め、人口密度も1平方km当り僅か11.9人と秋田でも極端に低い過疎地となり昔日の面影はないのです。東北・アイヌ語地名の研究(草風館)によると濃厚なアイヌ語地帯は秋田県・山形県境と宮城県北部のライン以北に多く見られ、殊に岩手県北部とここ旧阿仁町・森吉町は顕著なのである。岩手の閉伊・遠野か秋田の阿仁かと言われるほど似たような地名には丸で北海道にでも来た様な錯覚を覚える程である。阿仁町には特に『ナイ』(川・沢の意味)のつく地名や川が多いのです。阿仁町は陸奥の小京都と言われる角館から世界一の大太鼓で有名な町鷹巣駅を結ぶ全長100kmの第三セクターの秋田内陸縦貫鉄道上にあり、然も文字通り秋田の奥羽山脈の山中を走る典型的ローカル線なのです。御他聞にもれず乗客は減りつずけ年間3億円の赤字で存亡の危機にあるのは何処の第三セクターも同じらしい。この鉄道は北秋田市と仙北郡西木村を境にして阿仁比立内から北に流れる阿仁川沿と上桧木内を南に流れる桧木内川や国道と交叉しながら縫う様に走るのです。秋田県道路地図(昭文社)の5万分の1の地図から沿線と国道105号界隈にある『内』のつく名称の所を拾い出してみました。

角館ー羽後太田―西明寺―八津−羽後長戸呂―松葉(相内)ー羽後中里(小波内)−左通(浦子内)−上桧木内比内沢・籾内沢)−阿仁マタギ(阿仁打当・打当内沢)―奥阿仁(阿仁戸鳥内・戸鳥内沢・志渕内沢)−比立内阿仁比立内・比立内川・゚内沢)−岩野目(阿仁幸屋)−笑内阿仁笑内)−萱草(根子・根子川)―阿仁合湯口内・湯口内沢・比内沢)−小渕(糠内)―前田南―阿仁前田(惣内・上惣内・横支内・蒲志内沢・桐内沢・女木内)−桂瀬(間内沢)―米内沢―上杉―合川―大野台―西鷹巣―鷹巣と凡そ100kmの間にこんなにもあるのですついでに沿線や国道以外にも秋田県内をザッと見てみると以下のような『内』つく名称がありました。灰内沢・浮内沢・堀内沢・小堀内沢比内(比内鶏で有名)・大子内(忠犬ハチ公生家の地)・梅内・天内・小比内・毛馬内(盆踊りと歌枕狭布の細布で有名)・西馬音内(佐渡おけさ・おわら風の盆と日本三大盆踊りで有名)母体・田床内・院内(国史跡院内銀山で有名)・富津内・浅見内・富津内下山内・仁別・河辺三内(青森三内は縄文遺跡で有名)・平鹿山内・河辺神内・生保内(田沢湖と民謡生保内節で有名)・保呂羽山(式内社波宇志別神社)・酢ゝ内・田子内(青森田子は大蒜で有名)・狙半内・役内(旧雄勝町は小野小町出生で有名)・薄久内・鑓見内・堀見内・大内沢・糠内・万内沢・奥見内沢・長場内皿見内満内・長子内・倉内・砂間内入見内川広久内男鹿内・釈迦内(大館きりたんぽ鍋)・茂内・法内川・板見内宇留院内生内味噌内等他にも多数あり、然も複数以上の地名も多いのです。恐らくその他にも北海道独特のベツ(登別仁別・ウシ(熊牛)・オマイ(苫小牧)阿仁三枚等に近い地名も多いのではないでしょうか。特に北海道ではナイ(稚内・幌内)のつく地名は凡そその25%を占めると言うのです。その中でも国道105号線を走っていて笑内(オカシナイ)の標識を見つけ時には一瞬思わず可笑(オカシ)しさがこみ上げました。文字から受けるイメージと読み方が実にマッチしているとは思いませんか?。北海道には岡志別と言う所もあるがナイもベツも川の意味なので地形や景色がそっくりだったに違いない。エミシに興味を持つものにとって秋田をはじめ岩手・青森の地名には大いに惹かれるのです。
(平成19年12月13日)(参考 東北・アイヌ語地名の研究 草風館 秋田県道路地図 昭文社 菅江真澄遊覧記 平凡社ライブラリー)


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